−ひき(hiki)−
・引き合いに出す(ひきあいにだす) 比較や参考のため、例として出す。話などの中で、例として挙げる。
・引き合う(ひきあう) 1.互いに引く。引っ張り合う。 用例:太平記−一三「刀を奪はれ進らせじと、引合ひける間」 2.互いに手を取り合う。互いに助け合う。また、通じ合う。 用例:太平記−三五「星野・行明等と引合ひ、国へ入ける路次の軍に打負て」 3.苦労や努力する価値がある。 例:「こんなに苦労したのに叱られては引き合わない」 4.取り引きをする。取り決めをする。約束する。 用例:滑・膝栗毛−五「先刻内々ひきあふておいた、アノ美しい可愛らしい<略>おやまさんは」 5.投資と利益が釣り合う。また、収支が償(つぐな)う。 類:●割に合う 例:「一個千円なら引き合う」 用例:滑・浮世風呂−四「お天気都合が悪いと休みが勝ちますからね、やっぱり引合(ヒキアヒ)ません」
・引き上げる(ひきあげる) 1.引っ張って上に上げる。 用例:蜻蛉−中「ゆきかふ舟ども、ほをひきあげつついく」 例:「線路に落ちた人をホームに引き上げる」 2.程度や値を高くする。 例:「公定歩合を引き上げる」 3.今までいた所を引き払って、元のところへ戻す。また、元のところへ戻る。 例:「軍隊を引き上げる」 4.取り戻す。取り上げる。没収する。 例:「投下した資金を引き上げる」 5.登用する。目を掛けて登用する。 例:「若い人をどんどん引き上げる」 6.時間を繰り上げる。日時を早める。 用例:平家−五「三日とさだめられたりしが、いま一日ひきあげて」
・引き受ける(ひきうける) 1.納得の上で、責任を持って仕事などを受け持つ。請け負って務めを果たす。 用例:浄・神霊矢口渡−四「討手を引受け討せては手柄にならず」 例:「会計を引き受ける」 2.代わって行なう。後を受け継ぐ。 用例:人情・春色梅児誉美−初「多くの借金を引請唐琴屋の家を相続なす」 例:「後は私が引き受けた」 3.他人の身元や人間性を保証する。保証人になる。 例:「亡命者を引き受ける」 4.客などの相手になる。また、応対する。あしらう。 用例:日葡「酒ヲヒキウケテノム」 5.自分の境遇などに当て嵌(は)める。引き当てる。 用例:滑・浮世風呂−二「おのがみに引うけてのあいさつ」
・引き金になる(ひきがねになる) ものごとが引き起こされる直接的原因になる。「引き金」は、銃の弾丸発射装置の金具のこと。 類:●切っ掛けになる 例:「些細な口論が引き金となって大乱闘事件となった」
・悲喜交々(ひきこもごも) 悲しんだり喜んだりという反対の感情を代わる代わる味わうこと。また、悲しみの感情と喜びの感情が入り混じった複雑な気持ち。 例:「悲喜交々至る」
・引き下がる(ひきさがる) 1.その場を去って離れる。引き退(の)く。退却する。 用例:とりかへばや―下「かんのきみはすこしひきさがりて」 2.おくれる。あとにつく。 用例:平家−一一「すこしひきさがて、兵五六十騎が程河原へうちいでたり」 用例の出典:とりかへばや物語(とりかえばやものがたり) 鎌倉初期の物語。4巻。作者未詳。現存本(今本)は平安末期成立の「古とりかえばや(古本)」の改作で鎌倉初期の成立。大納言兼大将の男女二子は美しく瓜二つであったが性質は男女逆で、父に「とりかえばや」と嘆息され、性を入れ替えて育った。そのために起こる様々の事件を描く。
・抽斗が違う(ひきだしがちがう)[=引き出しが〜] 思い違いをする。勘違いする。 用例:人情・恋の若竹−三「引出しの違ふ竹次郎が話の」 用例の出典:恋の若竹(こいのわかたけ) 人情本。・・・調査中。
・引き立つ(ひきたつ) 1.特に見映(みば)えがあるようになる。 類:●際立つ 例:「地味で引き立たない」 2.勇ましくなる。勢いが良くなる。盛んになる。 用例:新撰六帖−六「杣山のあさきの柱節しげみ引き立つべくもなき我が身かな」 例:「気が引き立つ」 3.戦(いくさ)で、恐れて浮き足立つ。退却し始める。 用例:太平記−六「大勢の引き立ちたる事なれば」
・引き立てる(ひきたてる) 1.横になっている物や人を引っ張って立たせる。引き起こす。 用例:落窪−一「衣の肩をひきたてて立給へば」 2.戸、障子などを、引き出して閉める。 用例:落窪−二「ひきたてて、錠ささんとすれば」 3.引いてきた車などを、停(と)める。 用例:宇津保−蔵開下「車ひきたててみる」 4.馬などを、引いて連れ出す。引いて連れて行く。 用例:平治−上「さる体なる馬二疋、鏡鞍おいて引たてたり」 5.一緒に連れて行く。一緒に行くように急き立てる。また、無理に連れて行く。引っ立てる。 用例:源氏−夕霧「やがてこの人をひきたてて推し量りに入り給ふ」 例:「容疑者を引き立てる」 6.人や、ある方面の事柄を、重んじて特に取り立てる。特に目を掛ける。 類:●贔屓する 用例:古今著聞集−一・二九「重代稽古のものなりけれども、引たつる人もなかりけるに」 7.気を奮い立たせる。励ます。 用例:談・風流志道軒伝−三「人の心を引立る三弦(さみせん)の」 8.一段と見栄えがするようにする。特に目立つようにする。際(きわ)立たせる。 例:「ブローチがドレスを引き立てる」 9.注意を集中する。特に、聞き耳を立てる。
・引き取る(ひきとる) 1.自分の手元へ引き寄せて取る。受け取る。 用例:源氏−宿木「こだになど少しひきとらせ給ひて、宮へとおぼしくて、もたせ給ふ」 2.引っ張って、無理に自分のものにする。奪い取る。盗み去る。 用例:源氏−紅葉賀「君にかくひきとられぬる帯なれば」 3.引き受けて手元に置く。子供などを、自分のところへ預かって世話をする。 用例:浮・世間娘容気−二「一人の姪、近き比より手前へ引(ヒキ)とり養育せられしかば」 4.話などの後を受け継ぐ。 用例:談・根無草−後「とかふの詞も出でざれば、長右衛門引とりて」 5.死ぬ。絶息する。多く、「息を引き取る」の形で使う。 用例:浄・大職冠−三「さらばと斗り夕潮の、引とる息や波の泡」 6.その場から立ち去る。退(しりぞ)く。 例:「お引き取りください」 用例の出典:世間娘容気(せけんむすめかたぎ) 浮世草子。享保2年(1717)。江島其磧。6巻6冊。町人の娘を素材として、様々な「娘」像を誇張して面白おかしく描かれている。その中に女性観、女性の社会的地位やモラルを浮かび上がらせる。
・引きも切らず(ひきもきらず)[=切らない・切れない] 絶え間がない。次々と続く。 類:●ひっきりなし
・引き渡す(ひきわたす) 1.綱・幕・橋などを、こちらからあちらへ長く張り渡す。張り巡らす。また、綿を引く。 用例:源氏‐胡蝶「錦ひきわたせるに」 例:「幔幕を引き渡す」 2.引っ張って、他の場所へ行かせる。 用例:和歌九品「望月の駒引わたす音す也」 3.罪人を引き回しにする。 用例:日葡辞書「ヒトヲヒキワタス」 4.手元にある人や物を他人の手に移す。譲り渡す。 用例:虎明本狂言・朝比奈「かまくらへ引渡さるる」 例:「犯人を引き渡す」 用例の出典:和歌九品(わかくほん) 歌論書。藤原公仁(きんとう)。寛弘6年(1009)以後か? 1巻。和歌を上品・中品・下品の3品に分け、更に各品を上・中・下の9段階に分けて評したもの。心と詞の調和による余情美が説かれている。