−こころ(の)(kokorono)−
・心の仇は心(こころのあだはこころ) 自分の心を傷付けるものは自分自身の妄念である。悟りを妨げるものはおのれの煩悩(ぼんのう)である。
・心の泉(こころのいずみ) 泉のように心に湧(わ)き出る考えや感興。 出典:千載・序「心の泉古へより深く」 出典:千載和歌集(せんざいわかしゅう) 平安末期の第7番目の勅撰和歌集。20巻。藤原俊成撰。後白河院の院宣による。俊成の私撰集を基盤に撰述し、文治4年(1188)成立。四季、離別、羇旅、哀傷、賀、恋、雑、釈教、神祇の部立に分かれ、歌数は流布本で約1286首。代表歌人は、源俊頼、藤原俊成、基俊、崇徳院、和泉式部、西行など。抒情的な古今風と耽美的な新古今風とに通じる両面が見られる一方、宗教的傾向もある。「千載集」。
・心の鬼(こころのおに) 1.心を責め苛(さいな)まれること。ふと心を過(よ)ぎる不安や恐れ。 @心の中で疑い恐れること。 類:●疑心暗鬼 用例:一条摂政集「わがためにうときけしきのつくからにまづは心の鬼もみえけり」 A心にかねて恥じ恐れていたことに直面してはっと思うこと。気が咎(とが)めること。 類:●良心の呵責 用例:枕草子−135「かたはらいたく、心のおに出で来て、いひにくくなり侍りなん」 2.心の奥に隠れている、善くない心。邪(よこしま)な心。 類:●邪心 用例:浜松中納言−五「われはかく思ふとも、さすがなる心のおにそひ」 3.恋慕愛着の妄念。煩悩(ぼんのう)に捕われる心。 用例:浮・好色一代男−五「なを思ひは胸にせまり、こころの鬼(オニ)骨を砕き」 用例の出典@:一条摂政集(いちじょうせっしょうしゅう) 平安後期の藤原伊尹(これただ・924〜972)の家集。西行作とも伝えられる。歌物語。 用例の出典A:枕草子(まくらのそうし) 随筆。清少納言。正暦4年(994)〜長保2年(1000)ころの成立。異本が多く、雑纂本系の3巻本・伝能因本、類纂本系の前田家本・堺本がある。一条天皇皇后定子に仕えた宮中生活の体験を歌枕的類聚、物はづけ的類聚、自然鑑賞、美的心象、随想、回想などの形でしるしたもの。澄んだ鋭敏な目で周囲に美を発見し、人生の断章を印象深く把握する。「をかし」の美を基軸に据え、描写は正確・簡潔で、「源氏物語」と並んで平安文学の双璧であり、随筆文学の代表と称される。「清少納言枕草子」、「清少納言記」とも。 用例の出典B:好色一代男(こうしょくいちだいおとこ) 江戸時代の浮世草子。8巻8冊。井原西鶴。天和2年(1682)刊。主人公世之介が、7歳から60歳までの54年間の様々な好色体験を経て野暮から粋に成長してゆく愛欲の生涯を描く。
・心の鬼が身を責める(こころのおにがみをせめる)[=己を責める] 悪事を働いた者が、己の良心の呵責(かしゃく)に苛(さいな)まれること。 類:●心に鬼を作る 用例:謡曲・歌占「身より出だせる咎なれば、心の鬼の身を責めて、かやうに苦をば受くるなり」 用例の出典:歌占(うたうら) 謡曲。四番目物。各流。観世十郎元雅(もとまさ)。二見の神主(かんぬし)渡会家次の一子幸菊丸は、行方(ゆくえ)の知れない父を尋ねて流浪し、加賀国白山の麓(ふもと)で歌占いをしている父と会う。
・心の琴線に触れる(こころのきんせんにふれる) 人の心の奥を揺り動かし、深い感動や共鳴を引き起こすことを、琴の糸に触れて音を発するのにたとえていう。 類:●心を打つ●琴線に触れる
・心の雲(こころのくも) 1.心が迷って、悟れないでいる状態を、心に雲が掛かっているのに喩えた言葉。 類:●心の迷い 用例:続後撰−六〇九「秋の夜は心の雲も晴れにけり」 2.心が塞(ふさ)いで晴れ晴れとしない状態を雲に喩えた言葉。 用例:夫木−一九「身をもなほうしとはいはじ今はただこころの雲を風にまかせて」 用例の出典@:続後撰和歌集(しょくごせんわかしゅう・ぞくごせんわかしゅう) 10番目の勅撰集。20巻。歌数は約1370首。宝治2年(1248)後嵯峨院の院宣により藤原為家が撰し、建長3年(1251)成立。代表歌人は定家・実氏・良経・俊成などで、「新勅撰集」にもれた後鳥羽院・土御門院・順徳院の歌を多く採っている。「千載集」「新勅撰集」と共に二条家の三代集とされる。「続後撰集」。 用例の出典A:夫木和歌抄(ふぼくわかしょう) 鎌倉後期の私撰和歌集。36巻。藤原長清撰。延慶3年(1310)頃成立か。「万葉集」以降の家集・私撰集・歌合などから従来の撰にもれた17,350首余りの和歌を収録し、四季・雑の部立によって類題したもので、歌謡や俗語方言を使った歌、散逸歌集の歌なども収録している。和歌研究上の貴重な資料。「夫木集」。
・心残り(こころのこり) 後に心が残って心配したり残念に思うこと。思い切れないこと。 類:●未練●気掛かり 例:「用事のため結果を見ていけないのが心残りだ」
・心の師となるとも心を師とせざれ(こころのしとなるともこころをしとせざれ) 自分の心を仏の教えに則して律すべきであり、心の動き(情意)のままに動かされてはならない。 出典:「北本涅槃経−二八」「願作心師、不師於心」
・心の注連(こころのしめ)[=標(しめ)] 1.心で、入らせまいと思うこと。立ち入り禁止だという心積もり。 用例:和泉式部集−上「心のしめはいふかひもなし」 2.身を慎んで心から神に祈ること。「かける」という言葉を伴うことが多い。 用例:長秋詠藻−下「しるやいかに君をみ嶽の初斎(はついもひ)心のしめも今日かけつとは」 ★「注連」は占有のしるしの縄<国語大辞典(小)> 用例の出典@:和泉式部集(いずみしきぶしゅう) 和泉式部の家集。万寿4年(1027)頃。正・続2巻。異本に、宸翰本・松井本・雑種本などがある。1589首。平安文化の爛熟を、またその崩壊を身をもって詠じた。紫式部から「和泉はけしからぬ方こそあれ」と指弾されるほど奔放(ほんぽう)な生活を送ったとされる。 用例の出典A:長秋詠藻(ちょうしゅうえいそう) 平安末期の私家集。3巻。藤原俊成作。治承2年(1178)、守覚法親王の求めで自撰した。歌数は約480首。書名は俊成が皇后宮大夫であったことによる。
・心の直にない者(こころのすぐにないもの) 心が正しくない者。盗みや騙(かた)りを働く悪者。 ★多く能狂言で用いられる表現<国語大辞典(小)>
・心の関(こころのせき) 1.思うことが通されず滞ることを関所に喩えた言葉。恋情が通じないときなどに使う。 用例:順徳院御集「人も守る心のせきをたれすゑて又あふ坂に道まよふらん」 2.心の中で相手の行動を堰(せ)き止めようと思うことを、関所に喩えた言葉。 用例:月詣−四「惜しめどもとまらで過ぎぬ時鳥こころの関はかひなかりけり」 3.相手に心を許さないことを、関所を設けて守るのに喩えた言葉。 類:●警戒心 用例の出典@:順徳天皇御集(じゅんとくてんのうぎょしゅう) 順徳天皇の歌集。・・・詳細調査中。 人物:順徳天皇(じゅんとくてんのう) 第84代の天皇。1197〜1242。後鳥羽天皇の第三皇子。母は修明門院藤原重子。名は守成(もりひら)。承元4年(1210)即位。在位11年。父上皇の討幕計画(承久の乱)に参加したが敗れ、佐渡に配流。在島22年ののち、同地で没した。歌集「順徳天皇御集」、歌学書「八雲御抄」、有職書「禁秘抄」、日記「順徳院御記」がある。 用例の出典A:月詣和歌集(つきもうでわかしゅう) 寿永元年(1182)。賀茂重保。寂蓮・二条院讃岐ら当代歌人36人に対し賀茂社に奉献する百首歌の提出を求め、これらを集めて作ったもの。
・心の丈(こころのたけ) 心の深さ。心のありったけ。思うことのすべて。 例:「恋文に心の丈を書き綴る」
・心の露(こころのつゆ) 悲しみのあまり内心で流す涙を、心の内の露に喩えていう言葉。
・心の欲するところに従えども矩を踰えず(こころのほっするところにしたがえどものりをこえず) 自分の心に思う事をそのまま行なっても、道徳の規範から外れることはないという境地。孔子が70歳で到達した境地。 類:●従心 出典:「論語−為政」「七十而従心所欲不踰矩」
・心の闇(こころのやみ) 1.煩悩(ぼんのう)に迷う心のことを、闇に喩えていう言葉。思い惑って理非の分別を失うこと。 類:●迷妄の心 用例:古今−六四六「かきくらす心のやみにまどひにきゆめうつつとは世人(よひと)さだめよ」 2.特に、親が子に対する愛から理性を失って迷う心をいう。 類:●子ゆえの闇 用例:源氏−桐壺「くれまどふ心のやみも堪へがたき片端をだに、はるく許に聞えまほしう侍るを」 出典:「後撰集−1103」「人の親の心は闇にあらねども子を思ふ道にまどひぬるかな」