−のり(nori)−
・乗り一(のりいち) 乗り心地が一番良いこと。 用例:平家−四「是はのり一の馬で候」
・乗り入れる(のりいれる) 1.馬、または車などを乗ったまま中へ進め入れる。 用例:狂言記・那須の与一「馬の太腹のひたる程、海にざっぷとのりいるる」 2.馬などにしばしば乗って、仕込む。乗り馴(な)らす。調教する。 用例:浄・十二段−五「馬上の達者にのり入させて候へば」 3.バス路線、鉄道線路などを、ある地点まで延長する。また、別の鉄道、バス路線に直通して運転する。 例:「地下鉄が私鉄に乗り入れている」 用例の出典:那須の与一(なすのよいち) 狂言。各流。「平家物語」の那須与一が扇の的を射た件(くだり)を狂言語りに仕立てたもの。大蔵流では「那須」「那須語(なすがたり・なすのかたり)」、和泉流では「奈須与一語」と言う。
・乗り移る(のりうつる) 1.他の乗り物に乗り換えて移る。移乗する。 用例:平家−一一「飛騨三郎左衛門景経、小舟にのて義盛が舟にのりうつり」 2.神仏や霊魂、また、妖怪などが人の身に宿る。取り憑(つ)く。 用例:浄・心中万年草−中「恵美須・大黒がのりうつった作右衛門を倒そふや」 例:「悪魔が乗り移っている」
・乗り遅れる(のりおくれる) 1.乗ろうとして、その時期に遅れる。乗り物の出発の時刻に遅れて乗り損なう。 用例:源氏−手習「岸遠く漕ぎ離るらむあま舟に乗をくれじと急がるるかな」 例:「バスに乗り遅れる」 2.転じて、ぐずぐずしていて、時機を逸(いっ)する。時流に取り残される。 例:「バスに乗り遅れる(miss the bus)」
・乗り換える(のりかえる)・乗り替える 1.その乗り物から降りて他の乗り物に乗る。乗り物を換える。また、乗る場所を換える。 用例:木工権頭為忠百首−雪「くやしくももと見し駒に乗かへてこしちの雪にまとひぬる哉」 2.心を他へ移す。特に、これまで付き合っていた人から離れて、他の人と縁を結ぶ。 例:浄・狩剣本地−二「我方へは家出したりと嘘ついて、世継に乗りかへくさったか」 例:「彼女は最近佐藤君から鈴木君に乗り換えたらしい」 3.これまでのものを捨てて他の新しいものを取る。 例:「現実主義に乗り換えた」 ★室町時代頃からヤ行にも活用<国語大辞典(小)> 用例の出典:木工権頭為忠朝臣家百首(もくのごんのかみためただあそんけひゃくしゅ) 和歌集。保延2年(1136)に藤原為忠が主催した歌会の歌集。・・・詳細調査中。
・乗り掛かった船(のりかかったふね)[=馬] 一旦岸を離れてしまった船からは、途中で下船できないところから、ものごとを始めてしまった以上、行くところまで行こうということ。一旦関わりを持った以上、途中で身を引くことなどできないということ。 類:●渡り掛けた橋●乗り掛かった馬●乗り出した船●He that is out at sea, must either sail or sink. (海に乗り出した以上は、航海するか沈むかするより仕方ない)<「英⇔日」対照・名言ことわざ辞典>
・乗りが来る(のりがくる)[=付く] 1.勢いが付く。調子が出る。 類:●調子に乗る●軌道に乗る 用例:雑俳・柳多留−五「きしゃうなど貰ってむす子のりが来る」 2.乗り気になる。
・乗り気(のりき) 興味が湧いて、気が向いてくること。進んでやってみようという気持ちになること。提案された話に乗ってみようという気になること。 類:●気乗り 例:「この取り引きに乗り気である」
・乗り切る(のりきる) 1.乗ったままで向こう側まで行き切る。乗ったままで最後まで行く。船などに乗って越える。 用例:人情・春色恵の花−初「『向ふ越をしての』これはつだづつみより山谷堀へのり切る事をいふなり」 2.思い切った行動をする。 用例:伎・謎帯一寸徳兵衛−大切「『喧嘩でもしてひょっと人でも』『ナニ、〈略〉そこは江戸ッ子。乗り切った事は』」 3.困難な状況を、途中で挫折せずに、なんとか頑張って切り抜ける。遣り通す。 類:●乗り越える●切り抜ける 例:「難局を乗り切る」 4.航行中の船が他の船に衝突して、船体を突き破る。 5.乗り物に全員乗る。 用例の出典@:春色恵の花(しゅんしょくめぐみのはな) 人情本。2編6巻。為永春水。天保6年(1835)。恋愛風俗物語、梅児誉美シリーズ。 用例の出典A:謎帯一寸徳兵衛(なぞのおびちょっととくべえ) 歌舞伎。四代目鶴屋南北。文化11年(1811)。『夏祭浪花鑑』の書き換え狂言。団七のお辰への恋慕と、それに纏(まつ)わる殺人を描いたもの。最後に団七はお辰の手に掛かって死ぬ。妻お梶とお辰の一人二役、その早変わりも見もの。
・乗り越える(のりこえる) 1.乗って向こう側に越える。上を越える。 用例:万代−雑・一「波のり越えてかもめ鳴くなり」 2.先人の力量、地位などを追い越す。 類:●凌駕する 例:「師を乗り越える」 3.困難な状態を苦心して切り抜ける。 類:●克服する●乗り切る 用例の出典:万代和歌集(まんだいわかしゅう) 鎌倉中期の私撰集。20巻。藤原家良撰か。宝治2年(1248)成立。万葉時代から当代に至る勅撰集に収められていない歌3800首余りを集めたもの。
・乗り越す(のりこす) 1.乗って向こう側に越える。上を越える。 類:●乗り越える 例:「塀を乗り越す」 2.乗り物に乗って越す。また、乗り物に乗って追い抜く。 用例:滑・浮世床−初「なぜに跡な駕籠に乗越れたのぢゃ」 3.他人を抜いて進む。他人の地位、身分などを追い越す。 用例:滑・風来六部集−放屁論後編「穴(けつ)のせまい仕送り用人に乗越れ」 4.他人の夫と情を通じる。他人の夫を寝取る。 用例:浄・極彩色娘扇−一「人の男をのりこした報いは早い針とがめ」 5.電車やバスなどで、下車する予定の駅(停留所)を過ぎても乗っていく。乗り過ごす。 例:「話に夢中になって駅を乗り越した」 用例の出典:極彩色娘扇(ごくさいしきむすめおおぎ) 浄瑠璃。近松半ニ・三好松洛合作。宝暦10年(1760)。お夏・清十郎もの。飾磨大九郎と悪手代のために五十両横領の濡れ衣を着せられた清十郎は呉服屋を追い出されたが、お品(しな)、お夏、藤兵衛、五郎右衛門らの献身と尽力で、加古川家に武士として帰参が叶い、お夏を正妻、お品を妾とする。通称「盲兵助(めくらひょうすけ)」。
・乗り込む(のりこむ) 1.乗り物に乗ったまま、ある場所や領域に入り込む。乗り入れる。 用例:甲陽軍鑑−品一五「侍百人許の中へ唯一騎乗こみ」 2.乗り物の中にはいり込む。乗車する。 例:「バスに乗り込む」 3.大勢の者が乗る。また、一団の者がある場所へ繰り込む。4.勢い込んである場所や領域に入る。意を決して進み入る。 例:「単独で敵地に乗り込む」 用例:浄・国性爺合戦−五「只一人南京の城に乗込」 5.特に、役者や興行の一座が、興行地に繰り込む。
・乗り出す(のりだす) 1.乗り始める。 例:「息子が自転車に乗り出した」 2.乗り物に乗って出発する。また、勢いよく出発する。 類:●繰り出す 用例:滑・浮世風呂−四「てんと面白しで、サッサと乗出したもんでごぜへましたが」 3.新たに始める。進んでものごとに関与する。積極的にその世界へ入っていく。 類:●打って出る 例:「警察が捜査に乗り出す」 4.〔他動詞〕 身体(からだ)を前へぐっと出す。また、膝(ひざ)を進めて前へ出る。 例:「車窓から身を乗り出して見る」
・乗り潰す(のりつぶす) 1.城などを乗っ取って滅ぼす。攻め入って滅ぼす。 用例:浄・頼光跡目論−三「城をさっそくにのりつぶし」 2.馬や自動車などを、乗り物として使用できなくなるまで乗る。 例:「運転が荒くて、車を3年で乗り潰してしまった」
・乗物医者(のりものいしゃ) 専用の、引き戸が付いた駕籠(かご)に乗って往診(おうしん)に行く医者。流行(はや)っている医者のこと。
・矩を踰える(のりをこえる) 道理から外れるという意味で、天の法則や、人間として守るべき道から外れること。また、身分を越えて出過ぎた行動をすること。 出典:「論語−為政」「七十而従心所欲、不踰矩」 →参照:従心