−とら(tora)−
・捕えどころがない(とらえどころがない) 証拠や論拠にする手掛かりがない。判断する材料がない。 類:●掴みどころがない
・虎にして冠す(とらにしてかんす・かんむりす) 虎に冠を被せたようということで、人らしく服装を整えてはいるが、虎のように猛悪である。 出典:「史記−斉悼恵王世家」「斉王母家、駟鈞悪戻、虎而冠者也」 ★前漢の襄(じょう)王の母方の伯父・駟鈞(しきん)の性格を評した言葉。 参考:沐猴にして冠す
・虎に翼(とらにつばさ)[=羽・角] ただでさえ強い者が更に威力を加えること。 類:●鬼に金棒●駆け馬に鞭 出典:「韓非子−難勢」「毋為虎傅翼、将飛入邑択人而食之」
・虎になる(とらになる) 酷(ひど)く酔う。酔って恐いもの知らずになる。 類:●泥酔する●大虎(おおとら)になる ★「酒(ささ)」と「笹」を掛けて、笹に付きものの虎と表現した。暴れる粗暴さの意味も込めている。
・どら猫(どらねこ) 飼い主がなく、うろついて食物などを盗んだりする猫。 類:●野良猫●泥棒猫 ★「どら」は、「どろ」と関係ある語か<国語大辞典(小)> ★「泥棒猫」と「野良猫」が混じってできた言葉かとも言う。 参考:「どろぼう」の語源 「どろ」は取、「ぼう」は坊で卑称、また「とりうばう(取奪)」の中略など、その他諸説ある<国語大辞典(小)>
・捕らぬ狸の皮算用(とらぬたぬきのかわざんよう) まだ捕らえないうちから狸の皮を売ることを考えるという意味で、不確実な事柄に期待を掛けて、まだ実現してもいないのに、それを元にあれこれ計画を立てること。 類:●皮算用●沖な物当て●飛ぶ鳥の献立●穴の狢を値段する●先ず兎を捕まえろ
・虎の威を借る狐(とらのいをかるきつね)
・虎の尾を踏む(とらのおをふむ) 強暴な虎の尾を踏むということで、極めて危険なことのたとえ。 類:●薄氷を踏むが如し●深淵に臨むが如し●春氷を渉(わた)るが如し●虎の口へ手を入れる 出典:「易経−履卦」「履虎尾、不咥人、亨」<虎の尾を踏むような危険な地位にあっても、正しいことを胸に抱いていれば、虎に食われることはない>
・虎の頭(とらのかしら) 虎の頭部。また、虎の頭部に似せて作ったもの。 俗信:昔、虎の頭を煮る真似をした湯で産湯(うぶゆ)を使わせると、その子の邪気を払い、生涯無病で過ごせると思われていた。
・虎の皮(とらのかわ) 1.虎の毛皮。敷物などとして珍重された。2.「捕らぬ狸の皮算用」に掛けて、「そうはいかない」を洒落(しゃれ)て言った言葉。 用例:滑・続膝栗毛−七「いやいやさうはとらの皮さ」 3.「虎の皮の褌(ふんどし)」の略。 用例の出典:続膝栗毛(ぞくひざくりげ) 滑稽本。十返舎一九。文政3年(1820)。上州草津温泉道中続膝栗毛。木曽街道・中仙道の道中記。膝栗毛(東海道中)の続編。
・虎の口(とらのくち) 極めて危険な場所や事柄の喩え。「虎口(ここう)」を訓読みした言葉。 用例:増鏡−久米のさら山「大塔の尊雲法親王ばかりは、虎の口をのがれたる御さまにて」
・虎の子(とらのこ) 1.虎の子供。2.虎は我が子を非常に大事に守り育てるということから、大切にして手元から離さないもの。秘蔵している金品。 例:「虎の子の貯金」
・虎の子渡し(とらのこわたし) 1.親虎が三匹の子を連れて川を渡る様子を形どった庭石の配置。京都竜安寺の石庭のものがその代表的なもの。2.苦しい生計の遣り繰り。 類:●無理算段 用例:浮・西鶴置土産−四「其蔵なから質に置き、虎の子わたしにはし給へども」 3.碁石などを使ってする遊び。4.次々に手渡すこと。リレー式に、順繰りに手渡すこと。5.馬術の秘伝の一つ。馬に乗って梯子(はしご)の上を渡る術。 逸話:「癸辛雑識−続集下」 虎が三匹の子を生むと、その中には必ず彪(ひょう)が一匹いて、他の二匹を食おうとするので、親はまず彪を背負って対岸に渡し、次にもう一匹を背負って渡した帰りに彪を背負って戻り、残りの一匹を渡したあとで、また彪を背負って渡る。 出典:癸辛雑識(きしんざっしき) 史書。南宋の周密(1232−1298)。・・・詳細調査中。
・虎の巻(とらのまき) 中国の兵法書「六韜(りくとう)」の虎韜巻(ことうかん)のこと。 1.兵法の秘伝書。2.芸道の秘事・秘伝の書。3.講義の種本(たねほん)。4.教科書に即して、註釈・解説した参考書。 類:●あんちょこ●虎巻(とらかん)
・虎は死して皮を残し人は死して名を残す(とらはししてかわをのこしひとはししてなをのこす)
・虎は千里を往って千里還る(とらはせんりをいってせんりかえる) 1.虎は一日で千里の道を往復することができるということ。勢いが盛んな様子。2.虎は一日に千里の道を行くが、我が子を思ってまた千里帰って来るということから、子供を思う親の気持ちが強い様子。
・どら息子(どらむすこ) 怠惰で遊び好きな息子。品行の悪い息子。 類:●放蕩息子●道楽息子 ★「どら」についての諸説 @打楽器の「銅鑼(どら)」から、「鐘をつく」→「金を尽く」→「金を使い果たす」ことにたとえた洒落。 A昔の遊郭の軒先にぶら下がっていた銅鑼を、「いらっしゃいませ」と景気よくジャンジャン鳴らしたところから。 B「道楽」が短縮されて「どうらく」→「どら」になった。 C「どろぼう」の「どろ」からの転。 D三河方言の「だら息子」からの変化。
・銅鑼を打つ(どらをうつ)[=かわく] 放蕩する。放蕩で金を浪費する。遊興で財産を使い果たす。 類:●金銅鑼を打つ ★「金尽く」を「鉦撞く」にかけ、さらに「銅鑼を打つ」にもじった語ともいう<国語大辞典(小)>
・虎を画きて狗に類す(とらをえがきていぬにるいす) 力量のないものが優れた人の真似をして、却(かえ)って軽薄になったり、無様な結果に終わったりすること。あまりに高遠なものを求めて、却って不成功に終わったりすること。 類:●竜を描きて狗に類す 出典:「後漢書−馬援伝」「画虎不成、反類狗者也」
・虎を野に放つ(とらをのにはなつ)[=千里の野に〜]・[=赦(ゆる)して竹林(ちくりん)に放す] 1.猛虎を野に放って自由にさせておくという意味で、猛威を揮う者などを、その力を存分に発揮できる状態におくこと。2.後で禍(わざわい)を招くような危険なものを野放しにしておくことの喩え。 類:●虎を養いて患いを遺す●生殺しの蛇に噛まれる ★源頼朝が平氏に捕らえられ伊豆に流された折、頼朝の人物を見て世人が評した言葉。 出典:「日本外史−頼朝正記・源氏上」「是猶放虎於野耳」 出典:日本外史(にほんがいし) 歴史書。頼山陽(らいさんよう)。文政10年(1827)老中松平定信に献上。22巻。日本初の正統的歴史書。源平より徳川までの盛衰興亡を、流暢な漢文体で書いたもの。その情熱的な文章は、幕末の勤王思想に大きな影響を与えた。
・虎を養いて自ら患いを遺す(とらをやしないてみずからうれいをのこす) 可愛がって育てた虎の子供が、後に猛虎になって禍(わざわい)となる。禍根を断たないで、禍の種を残すことの喩え。 出典:「史記−項羽本紀」「養虎自遺患也」 ★項羽の和議を受け入れた漢王に対する張良と陳平の進言。