−とり1(tori1)−
・取り敢えず(とりあえず) 1.猶予なく。直ぐに。直ちに。 例:「取るものも取り敢えず駆け付ける」 用例:浮・日本永代蔵−四「取あへず、暇乞なしに上方にのぼり」 2.色々しなければならないことを差し置いて、まず第一に。先ず最初に。差し当たって。 例:「取り敢えずお知らせまで」 用例:親元日記−文明17年8月4日「先不取敢御肴にて御銚子まいる」 ★取るべきものも取らずに、の意から<大辞林(三)> 用例の出典:蜷川親元日記(にながわちかもとにっき) 武家方記録。蜷川親元。寛正6年(1465)〜文明18年(1486)−現存分より−。蜷川家は歴代幕府政所代の職にあった家。幕府と諸大名の関係や、将軍家、伊勢氏(主家)の動向、芸能を含む当時の武家の行事を記す。自筆原本が一部残っている。
・取り上げる(とりあげる) 1.置いてあるものを手に取って上げる。拾い上げる。 用例:枕−一五一「はちすのうきはのいとちひさきを池よりとりあげたる」 2.意見、申し出などを採用する。申請されたものごとを受理する。 例:「彼の意見を取り上げる」 3.財産などを没収する。 類:●召し上げる 用例:日葡辞書「ヤク、または、チギャウヲトリアグル」 4.徴収(ちょうしゅう)する。徴発する。 例:「税金を取り上げる」 5.取って自分のものにしてしまう。騙(だま)して、また力尽くで奪い取る。 用例:滑・浮世床−二「素一歩工面した所が、紙入の類みな取(トリ)あげられて手になし」 6.手を貸して赤子を生ませる。また、育てる。 用例:曾我物語−九「君をば乳のうちより、それがしこそ取あげ奉ては候へ」 7.髪を手繰り上げて結ぶ。 用例:義経記−五「かぶとをばぬいでたかひもにかけ、みだしたるかみとりあげ」 8.中世日本で、髪上げを行なって、元服させる。 用例:平家−一〇「君の御元服候し夜、かしらをとりあげられまいらせて」 9.特に取り立てて問題にする。問題として扱(あつか)う。 用例:滑・浮世風呂−二「子供の喧嘩をとり上るは悪うございます」 10.身分などを引き上げる。上位に付ける。 類:●取り立てる 用例:伎・好色芝紀島物語−五幕「到頭場末の家主とまで取りあげた此の与九兵衛」 用例の出典:好色芝紀嶋物語(こうしょくしきしまものがたり) 歌舞伎。世話物。河竹黙阿弥。6幕。明治2年(1869)。枕探しの濡衣を着せられ、責め殺された遊女敷島が亡霊となって現われる。情人重三郎がその仇を討つ。
・取り合わせ(とりあわせ) 1.取って合わせること。調和するように配合、配置すること。 類:●組み合わせ●調和 例:「これは良い取り合わせだ」 2.口添え。取り成し。 類:●仲介 用例:浄・心中万年草‐上「おいとまの出る様に取合せ頼みます」
・鳥居立ち(とりいだち) その格好が鳥居の姿に似ているところから、両脚を開いて、立ちはだかること。 類:●仁王立ち 用例:浄・神霊矢口渡「宮居の前に鳥居立ち、遁さぬやらぬと家来共」
・取り入る(とりいる) 1.選び出してその事に関係する。関わる。 用例:今鏡−六「公事などは職者におはせしかど、世のまめなる事はとりいられぬ御心にや」 2.目上の人などの気に入られようとする。諂(へつら)う。愛顧を得ようとして媚び諂う。 例:「上役に取り入る」 用例:仮・浮世物語−二「己富貴に誇り、大名方にとりいり」 用例の出典@:今鏡(いまかがみ) 歴史物語。平安時代。10巻。嘉応2年(1170)成立。作者未詳(中山忠親、源通親などとも)。「大鏡」の後、万寿2年(1025)から嘉応2年に亘(わた)る記述。四鏡の一つ。「小鏡」・「続世継(しょくよつぎ)」。 用例の出典A:浮世物語(うきよものがたり) 仮名草子。江戸前期。5巻。浅井了意作。万治年間(1658〜1661)刊。諸国修業中の主人公浮世房を通して、当時の世相を写し、風刺したもの。浮世草子の先駆をなす作品。「続可笑記」。
・取り柄(とりえ) 1.取り上げて用いるべきところ。格別に良いところ。特に役立つところ。 類:●得手●長所 例:「飲んだくれるだけでなんの取り得もない宿六」 2.動機。切っ掛け。 用例:日葡辞書「コレヲトリエニシテ」
・鳥威し(とりおどし) 1.農作物を食い荒らす鳥を威して追い散らすために田畑に設ける仕掛け。案山子(かかし)や鳴子、空砲などの類。秋の季語。 2.案山子が弓矢を持っているところから、持ってはいるが役に立たない弓矢のこと。弓矢を嘲(あざけ)っていう言葉。
・取り返しが付かない(とりかえしがつかない) 1.取り戻すことができない。2.元の状態に戻すことができない。回復できない。 類:●追い付かない 例:「今となってはもう取り返しが付かない」
・鳥影が射す(とりかげがさす) 鳥の影が壁や障子などに映ること。また、それを来客の予兆とするところから、誰かが訪ねてきそうだという前兆。
・取り越し苦労(とりこしくろう・ぐろう) 先のことをあれこれ考えて無駄な心配をすること。 類:●杞憂
・取り下げる(とりさげる) 1.一旦差し出したものや預けたものを、取り戻す。 用例:大鏡−二「東宮の御くらゐとりさげられたまへることは」 2.申し出ていた訴訟や願いを取り消す。また、前言(ぜんげん)を撤回する。
・鶏寒うして樹に上り、鴨寒うして水に下る(とりさむうしてきにのぼり、かもさむうしてみずにくだる) 同じ条件の下(もと)でも、物によってそれぞれの性質があり、その性質に従って違う行動するものだということの喩え。 類:●鴨は水に入り鶏は木に上がる●十人十色 出典:「景徳伝灯録」「鶏寒上樹、鴨寒入水」
・取り澄ます(とりすます) 真面目腐った顔付きをする。体裁を飾って気取る。勿体ぶる。 例:「取り澄ました顔」
・取り付き身上(とりつきしんじょう) 所帯を持ったばかりで、まだ何も整っていない家庭の状態。新世帯。 類:●取り付き身代
・取り付き虫(とりつきむし) 1.その実が衣類などに付き易いところから、植物「牛膝(いのこずち)」の異名。2.煩(うるさ)く纏(まと)わり付いて離れないものや、取り付いて害をなすようなものの喩え。
・取り次ぐ(とりつぐ) 1.双方の間に立って、一方から他方へものごとを伝達する。一方から受けて、他方に送る。特に上位の者に用件を伝える。 用例:宇津保−吹上・上「下づかへはみすのもとまでとりつぎ」 例:「伝言を取り次ぐ」 2.問屋や製造元から商品を仕入れて他に売る。商品の請け売りをする。 例:「商品を取り次ぐ」
・取り付く島もない(とりつくしまもない) 「島」は、頼りや助けとなるものごとの喩え。 1.相手がつっけんどんで話を進めるきっかけが見付からない。 類:●突っ慳貪 例:「けんもほろろで取り付く島もない」 2.頼りにして取り縋(すが)るところがない。頼るべきところがなくてどうしようもない。
・取り留め(とりとめ) 1.失いかけたものを取って留めること。押さえて留めること。2.纏(まと)まり。締(し)まり。 例:「取り留めがない話」