−うち(uti)−
・打ち上げ(うちあげ)・打ち揚げ 1.下から上へ勢い良く動かす。打って上げる。 例:「ロケットを打ち上げる」 2.波などが打ち上げること。 用例:新撰六帖−三「浜の真砂の打上に」 3.演劇用語。 @ 能楽の囃子(はやし)で、連続して演奏した末に、大・小鼓、またはそれに太鼓を加えて、一段落を付ける手法の一種で、少し調子を上げて演奏される。一旦囃子を止めるのと、継続するものとの二種がある。 A歌舞伎の鳴り物の一つ。特に、長唄囃子の拍子事(ひょうしごと)の段落に用いられる手法で、太鼓入りの囃子を一段と高めて一区切り付けるもの。また、幕切れ、せり上げなどで効果音の付けを早打ちすることをも言う。 4.弓を引くため、矢を弦に番(つが)えて持ち上げること。 5.花札の遊びで、下座にいて持っていれば役になる札をやむなく上座の方に打ち出すこと。 6.囲碁で、相手の死に石を取り上げること。また、一局終わること。 類:●終局 7.「打ち上げ花火」の略。 8.「打ち上げ簾(すだれ)」の略。 9.(「あげ」が「終了」「完成」の意味を持つ) @刀剣などを作り上げること。 A相撲、芝居などの興行を終えること。 B事業、仕事などを終えること。また、その宴。 例:「討論会の打ち上げ」
・打ち明ける(うちあける) 1.勢い良く開(ひら)いたり、開けたりする。 例:「窓打ち明けて」 ★「あく」を強めていった言葉。 2.中のものを出して空(から)にする。容器に入っているものや持っているものを全部出す。 用例:浮・好色一代男−五「巾着にあるほど打あけて」 3.家を留守(るす)にして外出する。 用例:浄・心中二つ腹帯−三「市の側(かは)から打ちあけて」 4.これまで人に語らなかった心の内などを、包み隠さないで話す。 類:●打ち明かす 用例:浮・好色敗毒散−五「打明けたる女の底に俄に隔てを入れらるる事、縁の切れ時か」 例:「彼女に僕の思いを打ち明けた」
・打ち上げる(うちあげる・ぶちあげる) 1.手や楽器を叩いて音を出す。特に、酒宴を催(もよお)して歌い騒ぐ。 用例:書紀−顕宗即位前・歌謡(図書寮本訓)「手掌(たなそこ)も摎亮(やらら)に<略>拍上(ウチアケ)賜ひ」 2.@声を出す。声を張り上げる。 用例:紫式部日記「うちあげたる伴僧の声々」 A下から上へ勢いよく動かす。 用例:源氏−宿木「まづおりてすだれうちあぐめり」 B射ようとして、矢を番(つが)えた弓を高く持ち上げる。 用例:宇治拾遺−一五・四「弓をさしかざして<略>うちあげたれば」 C乗っている馬を水中から陸にさっと上がらせる。 用例:平家−九「梶原が乗ったりけるする墨は<略>はるかのしもよりうちあげたり」 ★「うち」は接頭語<国語大辞典(小)> 3.打って、上の方に動かす。 @波が岸に打ち寄せて、物を陸に運び上げる。 用例:日葡辞書「フネヲウチアゲタ」 A打って高く飛ばす。上に放つ。 用例:日葡辞書「ツブテヲウチアグル」 4.(「あげる」は、終える、仕上げる、すっかり〜するなどの意味) @すっかり使う。全部与える。 用例:浄・源氏冷泉節−下「金銀財宝、くら一ケ所を打あげんとの頼みなり」 A刀剣などを鍛(きた)えて作り上げる。 用例:伎・四天王楓江戸粧−三立「二振りの剣を打ち上げぬ内は」 B鳴り物の演奏を終える。特に歌舞伎の囃子(はやし)方で、太鼓入りの鳴り物を一段と高く打ち終えて区切りを付ける。 用例:伎・矢の根「鳴物打上げ」 ★歌舞伎脚本のト書きの用語<国語大辞典(小)> C太鼓を打ち終えることから、芝居や相撲興行などを終える。転じて、長く掛かった集会や仕事などを終える。 D囲碁で、相手の石を取る。また、一局終わる。 用例の出典:矢の根(やのね) 歌舞伎十八番。曾我物。村瀬源三郎。享保14年(1729)中村座。父の敵、工藤祐経(すけつね)を討つ準備のため、五郎は家で大きな矢の根を研ぐ。大薩摩主膳太夫から貰った宝船の絵を枕の下に敷いて寝ると、夢の中に兄の十郎が現れ「今、工藤の館に捕まっているから助けに来てくれ」と言い残して消える。五郎は跳ね起き、通り掛かった馬子(まご)から馬を奪って、駆け出す。別名「扇(すえひろ)恵方曾我」。
・打ち合わせる(うちあわせる) 1.物と物とを互いに打って、巧く合うようにする。楽器などを巧く合うように演奏する。弦楽器や歌についても言う。 類:●合奏する●合唱する 用例:源氏−宿木「今もいとものものしくてうちあはせたまへり」 2.合うようにぶつける。ぶつけ合わせる。 例:「杯を打ち合わせる」 3.着物の襟元(えりもと)などの左右を、寄せて巧く合うようにする。 類:●掻き合わせる 用例:枕−七六「袖うちあはせて立ちたるこそ」 4.都合などが巧く合うように、前もって相談しておく。下相談をする。 例:「日程を打ち合わせる」 ★雅楽の合奏からできた言葉。
・打ち込む(うちこむ) 1.打って入れること。2.熱中する。全力を集中する。 例:「仕事に打ち込む」 3.深く心を寄せる。ある人を恋い慕って夢中になる。 類:●惚れ込む 用例:日葡辞書「ソノヒトニウチコウダ」
・打ち出の小槌(うちでのこづち) 「一寸法師」に登場する小槌。振れば何でも思うままに出せる小さな槌。 類:●魔法のランプ●ドラえもんのポケット 出典:「御伽草子」
・打ち解ける(うちとける) 1.氷などが溶ける。 用例:詞花−一「氷りゐし志賀の唐崎うちとけて」 2.緊張が解けて心がゆったりとなる。寛(くつろ)いだ気分になる。 類:●気を許す 用例:伊勢−二三「今はうちとけて、手づからいひがひとりて」 3.特に異性との交際で、心隔てがなくなる。馴れ親しむ。 用例:宇津保−楼上・上「打とけてうらもなうこそたのみけれ」 4.気が緩(ゆる)む。油断する。警戒心がなくなる。 用例:枕−三〇五「うちとくまじきものえせもの」 用例の出典:詞花和歌集(しかわかしゅう) 和歌集。藤原顕輔撰。仁平元年(1151)。第六の勅撰和歌集。10巻。415首。「詞花」の名は前代の「金葉」にほぼ等しく、10巻から成る構成も倣(なら)っている。時代も20年程しか違っておらず、当代歌人の作風にさほどの変化は見られない。様々な意味で、金葉・詞花二集は双生児的な性格を持った歌集と言える。
・内に怨女無く外に曠夫無し(うちにえんじょなくそとにこうふなし) 年頃になっても夫を得られず恨み嘆く女も無ければ、連れ合いを持てずに恨み悲しむ男もいない。世の中が巧く治(おさ)まって、不平不満の無い良い治世であることの喩え。 故事:「孟子−梁恵王・下」「當是時也、内無怨女、外無曠夫」 周の大王の時には、天下の人々の結婚が巧く行なわれ、家の中には、適齢期を過ぎても結婚できないで身の不幸を恨んでいる女性もなく、また家の外には、年頃を過ぎても妻が持てずに、家を空けて出歩いている男性もなかったという。
・内に省みて疚しからず(うちにかえりみてやましからず) 自分の良心に質(ただ)してみて、少しも恥じるところがない。 出典:「論語−顔淵」「内省不疚、夫何憂何懼」
・中に誠あれば外に形る(うちにまことあればそとにあらわる) 心の中に誠意があれば、それは自然に言葉や動作に表れ出てくるものである。  出典:「礼記−大学」「此謂誠於中、形於外。故君子必慎其独也」
・内鼠(うちねずみ) 1.自分の家の中にばかり篭もっていること。また、そうような世間の知らずの者。 類:●井の中の蛙 用例:仮・他我身の上−三「此の子うちねずみにて、我がうちより外をしらざれば」 2.家に閉じ込められた身の上。 用例:浮・本朝浜千鳥−四「是より新八内ねずみ」 用例の出典@:他我身の上(たがみのうえ) 仮名草紙。山岡元隣。明暦3年(1657)。1冊。比喩的・概念的な教説を、素朴な技巧で表現したもの。 用例の出典A:本朝浜千鳥(ほんちょうはまちどり) 浮世草紙。永井正流。宝永4年(1707)。6巻。15話から成る巷説奇談集。
・内裸でも外錦(うちはだかでもそとにしき) 内実はいかに苦しくても、世間体(せけんてい)は立派に繕うこと。 類:●武士は食わねど高楊枝
・内広がりの外窄り(うちひろがりのそとすぼり・すばり)・外窄まり 家の中で威張るが、外へ出るとからきし意気地がなくなること。 類:●内弁慶
・内弁慶(うちべんけい) 家の中では威張り散らすが、外へ出ては全く意気地がないこと。また、そういう人。 類:●内広がりの外窄り●陰弁慶
・内股膏薬(うちまたごうやく) 内股に張った膏薬が両腿に張り付くように、一定の意見もなく、都合次第で、あちらにもこちらにも付くこと。また、そういう人。 類:●二股膏薬●日和見主義●理屈と膏薬は何処にでも付く
・有頂天(うちょうてん) 1.仏教用語。梵語(サンスクリット語)の訳語。欲界、色界、無色界の三界のうち、存在(有)の世界の最上(頂)である色究竟天(しきくきょうてん)のこと。また、一説には無色界の最上である非想、非非想処天とする。 類:●有頂 用例:曾我物語−一二「上はうちゃうてんを限り、下は阿鼻を際として」 2.「有頂天」に上り詰めるという意味から、喜びで気分が舞い上がっている様子。 例:「褒められて有頂天になる」 3.我を忘れ、夢中になり、周りを顧(かえり)みない様子。 用例:俳・毛吹草−六「月を見る人の心や有頂天」
・烏鳥の私情(うちょうのしじょう) 子供が親に孝養を尽くす情愛の喩え。 類:●烏に反哺の孝あり 出典:李密「陳情表」「烏鳥私情、願乞終養」<烏鳥の私情、願はくは養を終へんことを乞ふ>