同訓異字の世界(〜さ行)
●常用漢字内でかつ、表内音訓
▲常用漢字でよく使われる表外音訓
▼常用漢字だがあまり使われない表外音訓
★常用漢字で慣用的な訓読み
◆表外字だが、頻度は高いもの
■その他の表外字
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あ−う 判別難易度★★
これには「合う」「会う」「遭う」「逢う」「遇う」などがある。実際は「合う」を除けば、残る異義語がだいたい「何かに出くわす」という意味を持っている。そこで、後者に重点を当ててみた。
●合う…一致すること。
例…計算が合う。パズルのピースが合う。不運が重なり合う。
●会う…これは単純に考えてよい。人に面会することである。
例…同窓会で旧友に会う。3時に友達と会う約束をする。
◆逢う…この「あう」は「会う」の一種だが、特別な意味を持っている。本来は「双方が出会うこと」を指しているのだが、今日では「逢い引き」などという単語に代表されるように、特に男女が出会うことを強調している。
例…明日、デートで逢う約束をした。久しぶりに逢いたい。
●遭う…これと「遇う」は人に「あう」とは限らない表現である。この「あう」は遭難という熟語で分かるように、「よくないものに出くわす」ことを意味している。
例…とんだ災難に遭った。
▲遇う…これは今までの類例と比較するとあまり使われないが、遭遇という熟語に代表されるように、「不意に出くわす」という意味である。また、「遭う」と似ている部分はある。
例…市街地を歩いていると、恩師に遇った。突然、飛び出したせいで交通事故に遇った。
あ−く・あ−ける 判別難易度★
これには「開ける」「明ける」「空ける」などがあり、判別は簡単である。
●開ける…閉じているものを開くこと。これは簡単に分かるだろう。対義語は「閉じる」である。
例…窓を開ける。口を大きく開ける。
●空ける…間に隙間や暇といったスペースを設けること。また、空(から)という読みにあるように、空にするという意味も持つ。
例…テレビを置く場所を空ける。時間を空ける。弁当の中を空ける。空き箱。
●明ける…これは「夜が明ける」という使い方のように、新しい時や時代の到来を告げることを表す。派生的な表現では「権利を明け渡す」などの使い方があるが、これも別の権利者に交代させることであるから、基本は同じである。また、「よく見えるようにする」という意味合いもあり、これには「手品の種を明かす」などの用法がある。
例…年が明ける。梅雨が明ける。彼女は自分の秘密を明かした。
※また、これらは「あ−かす」とも読むが、この場合「証す」という単語も登場する。
▲証す…証明すること。
例…答えを証す。
あらた−める 判別難易度★
日常では「改める」で問題はない。が、判別は容易なので覚えておいても紛れることはないだろう。
●改める…今までのものを新しくすること。
例…今までのルールを改める。日を改めて来訪する。
▼革める…革新という熟語の通り、思い切って新しくすることである。度合いは改より強い。
例…国家を革める。
▼検める…検査という言葉通り、間違いがないかよく確認すること。
例…乗車券を検める。
い−う 判別難易度★★★★★
日常生活の中で使うなら「言う」だけで十分なのだが、そのニュアンスや表現によって「言う」「云う」「謂う」「曰う」などがある。そして、特に厄介なのが「謂う」の用法で、これは判別するのは相当難しいと思う。
●言う…普通に言葉を発すること。語ることを強調。
例…親に小言を言われる。このような意見を言ってみた。
◆云う…ネットの普及によって、この「云う」はかなり浸透してきたのではないだろうか?これは「同格」を表す表現で、類例を見ればすぐに解るだろう。
例…権兵衛と云う腕の立つ漁師がいた。羊蹄山は蝦夷富士とも云われる。これと云う手段が見あたらない。そう云う考えが駄目だ。
(注)前後の言葉が修飾の関係にあれば、「云う」であるというのは間違いである。その例として『キリストは処刑されていない、という人もいる』ではどうだろうか?人は確かに被修飾の関係にあるが、同格の関係ではない。むしろこれは次に挙げる「謂う」の事例に当たる。
■謂う…さて、問題がこの謂である。これにはどうやら「@人に話しかけるA批評するB名付ける」という用法があるようである。最も判別が楽なのはBであろう。@とAは「言う」で代用されているし、無理に使い分ける必要もないのではとも思える。それほど、この「謂う」の用法は難しい。
例…部費の値上げについて、顧問に謂ってみた。彼にそんなことは無駄だ、と謂われた。謂わば、それは人災である。
■曰う…どのIMEツールでも変換されるものはなく、ほとんど用法も知られていないと思う。だが、「いわく」という読み方は知られている通り、@口にすること、そしてA引用することの意味がある。
例…高校サッカーにとって国立競技場は、高校野球で曰う甲子園のような存在だ。
うつ−す・うつ−る 判別難易度★★★
これには「移す」「写す」「映す」「遷す」などがある。これらは場所を変える意味を持つ「移す」「遷す」と「写す」「映す」に区別できる。とりわけ、ややこしいのは「写す」と「映す」だが、簡単に見分けるコツがある。
●移す…場所を変えることである。これは迷うことはないと思う。
例…隣の部屋に花瓶を移す。移りゆく景色を眺める。
▲遷す…これは「移す」の一種であるが、遷都などという熟語が示すように、大がかりなものを移転させる用法である。
例…首都を山奥に遷す。今までの事業を子会社に遷す。
●写す…これは元の風景や絵を別のものに書き換えることである。簡単な覚え方としては、コピーするものだと考えればよい。コピーは日本語で複写である。つまり、複写するものならば、「写す」のである。
例…カメラで彼女を写す。北斎を写した絵。宿題を写したことがばれた。彼は死んだ祖父の生き写しである。
●映す…これはスクリーンや湖面などに物を投影させることを指す。また、イメージなどを思い浮かべる時もこの「映す」を使う。「写す」との違いは、その姿を複製することではなく、何かを通じて姿を現すことだと認識すれば、区別も簡単だと思う。
例…ホームビデオを映す。湖面に雄大な山脈が映る。あの時の光景が今も脳裏に映る。擾乱の世に映し出される未来。
★撮す…これは近年、慣用的に使われるようになった動詞で、ビデオなどを撮影する意味を持つ。
…幼い我が子の成長を撮したビデオ。
※また、このほか「感染す」という用法がある。これは感染という熟語からも分かるように、病気が伝染することである。
おお−う 判別難易度★★
一般的には覆でまかなわれるが、もっと広い語彙力を持ちたいなら覚えておくといいだろう。
●覆う…すっぽりと上からかぶせて包み込むこと。その他汎用的に用いられる。
例…テーブルを白いクロスで覆った。手で顔を覆う。マスクで覆われたプロレスラー。
▲被う…上から全体を被せること。
例…山肌を被う大雪。彼女は艶やかな晴れ着に被われていた。
■掩う…手で隠してしまうこと。手偏に注目。
例…妹は、あまりの恥ずかしさに目を掩ってしまった。騒音がひどいので、耳を掩う。
■蔽う…間を遮って、目的物を隠してしまうこと。遮蔽、隠蔽という熟語にヒントがある。
例…雑草に蔽われた荒れ田。霧に蔽われた山々。不正献金疑惑は権力によって蔽われてしまった。
■蓋う…蓋をするようにおおう。また広く行き渡らせること。古風な使い方。
例…死者の顔を蓋う。名声天下を蓋う。
おか−す 判別難易度★★
日常でも頻繁に使用される同訓異義語。これも学校の授業では定番といえる。ややこしいのは冒ぐらい。
●犯す…規則や道徳に反することである。
例…切羽詰まった彼は、遂に罪を犯した。つまらないミスを犯したことが原因だ。
●侵す…侵入、侵略という熟語の通り、他人の家屋や建物に入り込んだり、相手の権利を踏みにじったりする行為である。要は相手のテリトリー(領域)に踏み入れることである。注意すべき用法として、用例の三番目にある「彼の体は難病に侵されつつある」の場合、単に病気で体がやられるのなら「冒す」が正しいのだが、侵には「じわじわとむしばんでいく」という意味もあるので、この場合は侵すが正しい。
例…平和な国土を犯す者。人民の権利を侵す。彼の体は難病に侵されつつある。
●冒す…これは「冒険」などのように無謀なことを無理やり行うという意味、ものが損なわれるという意味などがある。上二つとの違いは、おかす対象は自分自身である。だが、冒涜という熟語に見られるように、「神聖なものを汚す」という意味もある。
例…危険を冒してまで、挑む価値はあるのか。彼の体は病に冒されていた。キリストの教えを冒す者。
おさ−める 判別難易度★
有名な同訓異義語。学校の授業でも習ってきただろうが、おさらいしておこう。
●収める…収納、回収という熟語の通り、きちんと中に入れることである。また、事態を収拾させる意味もある。
例…彼は賞金を懐に収めた。国内の紛争は無事に収まった。
●納める…収めるの対義語。納入、納税という熟語の通り、金品などを相手に受け渡すことである。ただし、「心に納める」などのように、きちんと入れるという意味もあるので注意が必要。
例…固定資産税を納める。あの日の感動を胸に納めておく。
●治める…治安という熟語が示すとおり、支配するという意味を持つ。
例…天皇が新たに国を治める。
●修める…技芸などを身につけることである。
例…その少年は学業を修めた。
お−す 判別難易度★
普段は押すと推すだけで問題はない。
●押す…力を加えること。ほか汎用的に用いる。
例…満員電車で押し合った。ボタンを押す。
●圧す…上から重みをかける、おさえつけることである。
例…多数派に圧される。プレス機でシャツを圧す。
◆捺す…手でおさえつけること。今日では判や印をおすことに多用される。
例…拇印を捺す。認め印を捺す。
●推す…推薦すること。前に進めること。
例…彼を委員長に推す。計画を推し進める。
おど−す 判別難易度★★★
いずれも「相手をこわがらせる」という意味があり、意味がよく似ている。しかし、ある着眼点に目を付ければ意外と判別は簡単かも知れない。
●脅す…これは脅迫という言葉が示すように、言葉によって相手をこわがらせることである。
例…弱みを握って、上司を脅した。金を出せと脅される。
●威す…これは威力、威圧という言葉が示すように権力で相手をこわがらせることである。
例…あの国の軍事力は世界中を威している。政治力で地方を威す。
●嚇す…これは、激しく声を立てたり、音を立てたりして相手をこわがらせることである。脅すと似ているが、違いは特定の相手を陥れたりする行為ではないことである。
例…奇声を発して、通行人を嚇す。敵を嚇すために特殊な鳴き声を上げる動物は多い。
か−える・か−わる 判別難易度★★★★
同訓異義語でも特に知られた用法である。ややこしいのは「代える」「替える」「換える」の使い分けだろう。
●変える…これはAという存在が姿を別の物にすることである。
例…宅地開発によって、この辺もすっかり変わった。彼はお酒を飲むと、乱暴な性格に変わる。
●代える…これは二つの対象に対して、代用、代役という熟語の通り、これからかえる対象に重点を置いている。また、替えるとの違いはその対象がはっきりしていることである。また「〜に」という助詞を使う所にも着目。
例…次のバッターを代打に代える。産休の先生に代わって、新たな先生が呼ばれる。
●替える…これは今のものから、別のとあるものにかえることである。代えるとの違いは対象物が不確定であることである。
例…新しく席を替える。前がよく見えないので、場所を替える。
●換える…これはAとBを取り換えるという、同格の立場で取引する意味と、同じ能力、目的を持つAを新しいものと換えるという意味を持つ。たいていの場合は、交換するという動詞に当てはめてみたらいいと思う。
例…ビスケットとチョコレートを換えた。銀行では小銭をお札に換えてくれる。電池を換えたら、走りがよくなった。この中古車を売り払って、新車に換えようと思う。
かた−い 判別難易度★★★★★
正直、この「かたい」ほど区別が難しい形容詞はないと思う。それぞれ状態や材質、密度に関係があるのだろうが、いざ実際、文章で使い分けようとすると迷ってしまうことが多い。一応、対義語や状況で考えればある程度分かりやすいのだが、それも踏まえて解説していきたいと思う。
●固い…状態が強くしっかりしていて、変形しない、壊れないことである。対義語は緩いなど。また、外から犯されてもびくともしない、こわばっている、考え方がかたくなである、などの意味がある。要はその対象の形が変わらないという意味である。
例…靴ひもを固く締める。ワインの栓が固い。彼はどうも考え方が固い。この辺りの地盤は固い。あの会社は経営陣が固い。彼とは固い友情の絆で結ばれている。
●堅い…中が充実している、あるいは密度が濃いために堅くなっているという意味である。対義語は軟らかい、脆いなどである。また、堅実である、確実であるという意味もある。要はその対象の中身がしっかりしているという意味である。
例…スルメが堅い。ヒノキ材は杉材より堅い。彼の守備は実に堅い。案外、身持ちの堅い男。僕は口が堅い方だ。堅い経営で黒字を確保する。毎日勉強したので、現役合格は堅い。
●硬い…これは元が材質的に硬く、形が変わらないことを意味する。対義語は「柔らかい」。重点が置かれるのはまず、元々の物質が持っている材質であり、その物質が生まれつき持っている状態である。そして、手触りが硬いなど、人の触感によるかたさという要素も持っている。また、堅苦しいという意味もある。
例…ダイヤより硬い宝石は存在しない。従来製品より硬い合板。このベッドでは、硬くて眠れない。彼は運動不足で体が硬くなっている。硬い文章表現は控えるべきだ。表情が硬いので、リラックスする。
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