同訓異字の世界(た行〜)

●常用漢字内でかつ、表内音訓
▲常用漢字でよく使われる表外音訓
▼常用漢字だがあまり使われない表外音訓
★常用漢字で慣用的な訓読み
◆表外字だが、頻度は高いもの
■その他の表外字

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た−つ 判別難易度★★

種類は多いが、判別は簡単である。

●立つ…まっすぐになること。低い姿勢から身を起こすこと。ある状況や場所に身を置く、ほか多様の意味を持つ。
例…寝そべった状態から立ち上がる。教壇に立つ。先頭に立って、みんなを率いる。

●建つ…建造物が造られることを指す。
例…新校舎が建った。また、マンションが建つ。

●絶つ…少し、断つとの区別が難しいかも知れない。これは絶交、絶縁などというように、続いているものを終わらせることである。
例…長年付き合ってきた相手との交際を絶った。不明者からの連絡が絶たれる。

●断つ…絶つとの判別が難しいかも知れない。これは続いているものを途中で遮ったり、切り離したりすることである。よって、その対象に対し、物事を終わらせるものではない。
例…好物を断って、願掛けをする。落石で通行路が断たれた。

●裁つ…衣服を仕立てるために、布を切ることである。裁断という熟語に注目。
例…布を裁つ。

▲経つ…時間が過ぎることである。表外訓だが使用頻度は極めて高い。
例…あれから10年が経った。

▲発つ…出発することである。
例…早朝に家を発つ。

▼起つ…目的のために、決意し、物事を始めることである。
例…反対派が起ち上がって、運動を起こす。


つか−える 判別難易度★

●仕える…目上の人のそばで奉仕すること。また役所に勤めること。
例…女王に仕える侍女。幕府に仕える人物。

▼事える…目上の人のそばで奉仕すること。
例…財閥に事える執事。

▲支える…ふさがって滞ること。文脈を読み取らないと、「ささえる」との区別ができない。
例…その議論には差し支えがある。出世に支える。

■閊える…物事がとどこおって先に進まないこと。
例…道が閊えて車が動けない。受付窓口が閊えている。天井が閊えて頭を打つ。

■痞える…胸や喉が塞がった感じになること。
例…胸の痞えが取れた。餅が喉に痞えて苦しい。


つ−く・つ−ける 判別難易度★★★

これはかなり種類の多い言葉である。しかし、それぞれ役割分担がはっきりしているので迷うことも少ないであろう。

●付く…二つの物がひっついて離れなくなる、また跡が残る意味を持つ。
例…接着剤が手に付く。アイロンの焼けこげが付く。

▼附く…上記の「付く」と統一されることは多い。細かく用法を分類すると、側から離れないようにする、後ろに従うという意味を持つ。
例…子供が親に附いて歩く。エサをあげると、自宅に犬が附いてきた。

●着く…ある目的に達すること。
例…三時間歩いた末、ようやく目的地に着く。禁煙中のいらいらで、仕事に手が着かない。

●就く…ある場所や役割に落ち着くことである。また、ある者に従うという意味もある。
例…苦労の末、仕事に就く。部長の座に就く。出場選手は位置に就いて下さい。優秀なコーチに就いたお陰で、彼は金メダリストになった。

●突く…これは一般的に用いる用法で、細長い棒を使って強く押す、押し当てる、打つなどという意味などを持っている。そのほか、一般的に刺激するという意味も持つが、近年は衝を使うことが多い。
例…彼は弟を突き飛ばした。木の枝で蟻の巣を突く。あと少しの所で、難問に突き当たった。優勝に向かってひたすら突き進む。

▲衝く…これは「突く」の系統に含まれ、攻撃するという意味を持っている。他に刺激するという意味もあり、今日ではこの用法が主流といってもいい。
例…意表を衝いた攻撃。核心を衝いた意見。生ゴミの悪臭が鼻に衝く。

◆撞く…これは棒状の物で、力強く打つ意味を持つ。
例…除夜の鐘を撞く。ビリヤードの玉を撞く。

■搗く…これは杵や臼を使って、餅などをつくことである。
例…みんなでお餅を搗く。

▲点く…これは火や明かりがつくことである。
例…火が点く。電球が点かなくなった。

▲吐く…これは口を使って、息を吐くこと、また言い放つことを意味する。
例…安堵の溜息を吐く。嘘を吐いたら承知しない。悪態吐いた発言。

◆憑く…これは悪霊や何かに乗り移られたことを意味する。
例…彼女には死に神が憑いているという。彼はゴルフの魅力に取り憑かれた。

▲浸く…字の如く、水につかることである。また、ひたす意味もある。
例…大雨で道路に水が浸く。お風呂は肩まで浸かりなさいと母は言う。小松菜を醤油に浸けて食べる。

●漬く…漬け物にすることや液体の中に漬け込むことを表す。浸けるとの違いは全体を濡らすか否かである。また、漬けるという用法が一般的。
例…赤カブがちょうど良く漬く。ホルマリンに漬ける。薬漬けの毎日。ここのところずっと仕事漬けで体が持たない。

▼即く…これは天使が位に達することである。
例…天使が天皇の位に即く。王位に即く。


ととの−える 判別難易度★★★★

「ととのえる」は2種類しかないが、特に用法の区別がややこしい同訓異字であり、今日では混同されている。ただ、これにも簡単な見分け方がある。

●調える…過不足がないようにそろえること。また、まとめることである。要は準備することだと意識すればよい。
例…必要な材料を一式調える。味を調える。

●整える…乱れないようにきちんとすることである。要は見た目をよくすることであると意識すればよい。
例…部屋の中を整える。洗濯物を整える。体調を整える。


と−る 判別難易度★★★★

この「とる」という単語も非常に種類が多く、混乱を招くことが多い。しかも最もポピュラーな単語である「取る」「採る」「捕る」の区別ですら、難しい。

●取る…手に持つ、自分の物にする、そのほか除くという意味も持ち、汎用的に使われる。
例…武器を手に取る。賭けに勝って、大金を取る。テーブルクロスのシミを取る。言われたことをメモに取る。

●捕る…これは捕まえることを意味する。「取る」との違いは体や道具を使って、対象物を離さないようにすることである。
例…外野フライを捕る。虫取り網でセミを捕る。

●採る…これが一番紛らわしいのではないだろうか?これは任意の中から撰んで手に入れるという意味を持つことを注意すれば簡単に見分けることができる。
例…春の野草を採る。紅花から染料を採る。鉱山から貴金属を採る。優秀な人材を採る。テストに出そうな箇所を採り上げてみた。

●執る…これもけっこう紛らわしい。特に「手に取る」という意味がこれにもあるからだ。ここでは手に取る行為より、それを使う行為に重点が当てられていることを注意する必要がある。他に仕事を処理する、上に立って指揮するという意味もある。
例…久しぶりに筆を執ってみた。軍の指揮を執る。舵を執る。

★奪る…慣用的だがけっこう使われる。これはそのまま、奪うことである。また、手中に収めるという意味もあり、必ずしも悪いイメージだけではない。
例…道行く人の金品を奪る。優勝旗を奪るために頑張ってきた。

▲盗る…その通り、盗むことである。
例…知らない間に財布を盗られた。

▲摂る…栄養を摂取すること。紛らわしさはない。
例…必要な水分を摂る。食虫植物も根から養分を摂っている。

▲獲る…これは狩猟や漁撈などで、獲物を手に入れることである。
例…一発の弾で三羽の鴨が獲れた。今年はイワシがよく獲れる。

▼穫る…これは農業で、作物がとれることを表す。
例…今年は晴天に恵まれ、米がよく穫れた。この地方ではミカンが獲れる。

●撮る…カメラや映写機などを使って被写体を写すこと。
例…大自然のありのままの姿を撮る。彼女を隠し撮りする。空前の大作が撮れたと、映画監督が豪語する。

★録る…ビデオやテープなどに記録することを表す。また、メモなどに記録することも録るを使うことがある。
例…ビデオに録る。会議の内容を議事録に録る。

そのほか
▼把る…しっかりと手に掴むこと。 例…本棚から辞典を把る。   →取る
▼操る…うまく操ること  例…上手にハンドルを操って、峠を疾走する。 →執る
■攬る…実権を握ること。 例…部下をうまく手駒に攬る。   →執る
▼揮る…指揮すること。 例…ウィーン合唱団の指揮を揮る。   →執る
▼択る…選択すること。 例…どちらを択るか、悩んでしまう。   →取る
■搴る…抜き取ること。 例…一人少ないというハンデを搴っても、まだ相手が優勢だ。   →取る


はか−る 判定難易度★★

これも有名な同音異義語であるが、区別は比較的楽である。迷うとすれば「計る」と「測る」の使い分けだろう。

●図る…意図という熟語が示すように、企てることを意味する。
例…資産運用の健全化を図る。

●計る…基本は数を数えることである。また、企てる意味もあり、その他汎用的な表現に多用される。
例…コンサートの来場者を計る。 ボーナスの試算を計る。

●量る…めかたやかさをはかることである。
例…体重を量る。引っ越しの荷物を量る。彼女の気持ちを量る。

●測る…これは距離や数値、データなどを調べることである。計るとの違いは数値を調べる行為であって、数量を調べる行為ではないことだ。
例…沖の深さを測る。駅までの距離を測る。彼の能力を測ってみる。

●謀る…悪事を企てること。
例…大統領の暗殺を謀る。まんまと兄に謀られた。

●諮る…上の者が下の者に対して、相談すること。
例…審議会に諮られた上で、候補地が決まる。


は−く 判別難易度★★

●吐く…人が体外にものを出すこと。
例…息を大きく吐く。食べた物を吐く。

●履く…履き物を足に着けること。ただし、靴下の場合は、下述の穿くを用いる。
例…靴を履く。草履を履く。

◆穿く…衣類を下半身に着けること。よって、靴下の場合は穿くである。
例…スカートを穿いた女性。互い違いの靴下を穿いていた。

●掃く…主に払いのけること。
例…箒で教室を掃く。掃いて捨てるほど候補がいる。


はし−る 判別難易度★★
日常では「走る」を使っていれば問題はない。

●走る…脚を速く動かすこと。かけること。
例…隣町まで走って行った。自動車が快適な速度で走る。

▼奔る…勢いよく動き回ること。
例…金策に奔って、接客をおろそかにする。署名を集めるため、あちこち奔ってきた。

■趨る…足早に赴くこと。
例…党利党略に趨る。事故現場に趨る。

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