同訓異字の世界(た行〜)
●常用漢字内でかつ、表内音訓
▲常用漢字でよく使われる表外音訓
▼常用漢字だがあまり使われない表外音訓
★常用漢字で慣用的な訓読み
◆表外字だが、頻度は高いもの
■その他の表外字
----------------------
ひ−く 判別難易度★★★
種類はかなり多いが、ほとんどは用法が決まっているので、迷うことは少ないと思う。また、普通に暮らしていくうちでは引く、弾くだけ覚えておけば何とかなる場合も多い。
●引く…自分の方へ近づけるように動かす、という意味の他、汎用的に用いられる。
例…綱を引く。辞書を引く。小遣いから本代を引く。
●弾く…ピアノや弦楽器などを奏でること。
例…ピアノを弾く。チェロを弾く。
◆曳く…曳航という熟語のように、綱などを付けて引っ張るという意味と、揺曳という熟語のように、尾を引くという意味がある。引きずるというニュアンスを覚えておくといい。
例…山から丸太を曳く。馬方が馬を三頭曳いてきた。後味の悪さがいつまでも尾を曳く。
◆牽く…これは牽引という熟語から示されるように、前から引っ張るという意味を持つ。
例…トレーラーが荷台を牽く。あの電気機関車は15両の貨車を牽いている。
▲退く…しりぞくことである。これは非常によく使われるので覚えておくとよい。
例…一度、前衛部隊を退く。彼は社長から身を退いて、会長となった。血の気が退く。潮が退く。
◆挽く…鋸や鉋、ロクロを使って、細かくするという意味がある。
例…角材を挽いて、等分する。ロクロを挽く。コーヒー豆を挽く。
■碾く…石臼を使って、穀物や葉などを細かく磨りつぶすこと。挽とほぼ同意だが、石臼を使う場合に限定される。とりわけ、お茶やそばを碾く時、多く使われる用法である。
例…新茶を碾いて飲む。蕎麦を碾く。
◆惹く…人の関心をひきつける意味を持つ。
例…彼女の優しさにはとことん惹かれる。同情を惹くやり方は感心できない。あの音色の良さに惹かれる。
◆轢く…車などが人を踏みつけることである。
例…彼は幼い時に車に轢かれたことがある。
ひら−く 判別難易度★★
●開く…閉じているものをあける、新たに始める、隔たりが生じる、という意味を持つほか、汎用的に用いられる。
例…窓を開く。何度も話しかけたお陰で、ようやく心を開いてくれた。メキシコに支店を開く。A市とB市では経済力からみても、大きな開きがある。
▲拓く…開拓という言葉に示されるように、新天地を切り開くという意味を持つ。
例…不毛の土地を拓いた男たちの物語。自分の運命は自分で拓くものだ。
▲啓く…啓蒙、啓発という熟語の通り、分からないことを理解できるようにするという意味を持つ。
例…知識を啓く。新たに悟りを啓く。
ひろ−い 判別難易度★★★
日常で生活する上では「広い」だけで十分通用する。ただ、それだとボキャブラリーに乏しさを感じた時、覚えておくといいかも知れない。
●広い…一般に汎用される用法。広さや幅があることを表す。
例…北海道は広い。この道幅は十分広い。彼は心が広い。
▲博い…博学、博識という熟語の通り、知識や道理に明るいこと。
例…彼は天文学の分野に博い。世の中に博い考え方を持つ男。
▼寛い…寛大、寛容という熟語が示すように、人の心にゆとりがあることを指す。
例…こんなことをしても許してくれるとは、何と心の寛い人なんだろう。
〔そのほか〕
■宏い…規模や考え方が大きいこと。 例…彼はなんて宏い考え方をするんだろう。
■汎い…全体に知れ渡っていること。 例…携帯電話は世代を問わず、汎く普及した。
■浩い…果てしなく広がっていること。 例…果てしなく浩い海は神秘的だ。
■豁い…度量があること。 例彼は豁い心を持っている。
ふ−く 判別難易度★
●吹く…風が起こること。息を出して、音や楽器を鳴らすことなど。
例…風が吹き荒れる。口笛を吹く。
●噴く…勢いよく、外に出ること。
例…火山が煙を噴いた。噴き出るような汗。
◆拭く…汚れ、水分などをふきとること。
例…雑巾でよく拭く。汗をよく拭き取る。
◆葺く…瓦などで屋根を覆うこと。
例…檜皮で葺いた仏堂。
ふ−るう・ふる−う 判別難易度★★★
●振るう…振り動かすこと。また、勢いを盛んにすること。
EX…木刀を振り回す。台風が猛威を振るう。振るわない業績。
▲揮う…力が十分に生かされること。自分の思いのままに動かすこと。
EX…腕を揮って作った料理。書道の大家が筆を揮う。
●奮う…気力を掻き立てること。
EX…上司に嫌味を言われ、奮い立った。奮ってご参加下さい。
●震う…小刻みに体を動かすこと。
EX…寒さで体が震える。
◆篩う…ふるいにかけること。また、基準で選別すること。
EX…パン粉を篩う。最終面接で篩い落とされる。
み−る 判別難易度★★★
この「みる」という動作は非常に多く、しかもそれぞれのニュアンスの違いによって使い分けるのは至難の業だと思う。だが熟語からニュアンスを捉えるのは容易く、よって覚えてしまえば簡単に使い分けられたりもする。もっとも日常では「見る」「看る」「診る」の区別だけできていれば何ら問題はない。
●見る…一般的に目を使う動作はこの「見る」で統一されている。だが細分化するとこの「見る」は、視覚を使って対象を捉えるという意味を持つ。また、判断をするという意味もある。だが熟語からニュアンスを捉えるのは容易く、よって覚えてしまえば簡単に使い分けられたりもする。もっとも日常では「見る」「看る」「診る」の区別だけできていれば何ら問題はないと思う。
例…山頂から煙が立ち上がっているのを見る。彼は人を見る目がある。
▲観る…この見るはちょうど英単語の”observe”にあたり、客観的に観察する、見物するという意味を持つ。見るとの違いは自発的であることだ。日常的には見るを使うが、テレビを観賞する場合は、「観る」が好まれる傾向がある。
例…ナイター中継を観る。火事場を遠くから観る。富良野のラベンダー畑を観てきた。
▲視る…これは、「観る」と区別が付きにくいと思うが、英単語で言えば”watch”にあたり、注意力を以て対象をみることを意味する。
例…注意深く、交差点を視る。モデルハウスの内装をよく視る。敵の動きをじっくり視る。
▼監る…これは監視という熟語が示すように、見張る、取り締まる意味を持つ。
例…捕虜の様子を監る。刑事が犯人の動きを監ている。電話の間、天ぷらの火をずっと監ていて欲しいと言われた。
▼察る…これは監察、偵察などという熟語が示すように、調べる、調査するという意味を持つ。早い話、チェックすることである。
例…会社の経営状況を察る。事業を改善するために、専門家に察てもらう。パソコンが故障したので、友人に察てもらった。分からない熟語を調べるため、辞書を察る。
▼覧る…これは閲覧という熟語が示すように、一通り目を通すことを示す。また、遠くを眺めるという意味もある。
例…新聞を覧る。求人広告を覧てきました。山頂から旭光を覧る。
▲看る…これは看護という熟語からも分かると思うが、世話すること、面倒をみることである。また、じっと物を見つめるという意味もある。
例…親の買い物の間、赤ん坊を看る。これからも彼を看ていきたいと思う。
●診る…これは診察、診断という熟語から、医者が病気などをうかがうことである。
例…一度、医者に診てもらった方がいい。
〔他にもこんな字がある〕
★鑑る…鑑賞すること。 例…優れた美術品を鑑る。
★顧る…振り返ること。 例…現実を顧ると、実現は無理そうだ。
★相る…占うこと。 例…今後の運勢を相てもらう。
★試る…試みること。普段は仮名書き。 例…これはやって試る価値はある。
■瞰る…高いところから下を見下ろすこと。 例…空から地上を瞰る。
■眄る…横目、流し目でみること。振り返る意味もある。 例…そんな目で眄られても困る。
■睹る…じっと見つめること 例…やせ細った腕をじっと睹る。
■瞥る…ちらっとみること。 例…一度瞥たことはあるが、顔は憶えていない。
■瞻る…上を仰ぐこと。 例…フロアから天井のステンドグラスを瞻る。
めぐ−る 判別難易度★★
一般には「巡る」さえ覚えておけば問題はない。
●巡る…一定の範囲を順番に見て回ること。
例…この辺の居酒屋を巡る。
▲回る・廻る…ぐるぐる回ること。また、ぐるりと回って元に戻ってくること。訓読だけだと「まわる」との区別ができない。
例…再び、彼の時代が回ってきた。湖の周りを何度も廻る。
◆繞る…辺りを取り巻くこと。
例…城下には無数の堀が繞らせてある。王位を繞って兄妹が争う。
よ−る 判別難易度★★★★★
かなり種類の多い動詞である。特に因る、依る、由る、拠るの区別はいずれもお互いの修飾関係にあるのだが、ニュアンスが酷似しており、かなり混乱すると思う。この場合、「よって」の部分を他の意味に置き換えるとすぐに判別できる。
●寄る…近くに行く、集まる、頼って身を寄せる、などの意味を持つ。問題はない。
例…あの店に寄っていく
●因る…原因、という熟語が示すように物事が起こる原因を示す。「〜に因って」という部分を「〜のせいで」に置き換えると分かりやすい。
例…乱開発に因って自然破壊が進行した。携帯電話の普及に因り、少年の非行が増えている。
▲拠る…対象物を根拠、よりどころとすること。「〜に拠って」という部分を「〜を参考にすれば」に置き換えると分かりやすい。
例…過去の事例に拠って、それは有罪となった。長年の経験に拠れば、この天候は雨の前兆であると農家は言う。
▲依る…これは対象物を手段、手法とする用法である。「〜に依って」という部分を「〜を使って」に置き換えると一目瞭然である。
例…法に依って、この問題を処理していくことになった。この村の農業は補助金に依って、何とか保たれている。
▼由る…これは由来という熟語が示すように、あるやり方に基づく、由来するという用法である。
例…古い慣習に由るしきたり。
▲選る…これは多くの中から目的にあったものを選び取るという意味を持つ
例…選りすぐりの精鋭たち。選り取り見取り。
■縒る・撚る…糸や紙などをねじって一本にする、ねじって絡め合わせるという意味。
例…腕に縒りを掛ける。糸を撚っていく。
よろこ−ぶ 判別難易度★★★
日常では「喜ぶ」だけ覚えておけば問題はないだろう。あと、挨拶文で「慶ぶ」はよく使われる。
●喜ぶ…嬉しい、楽しいと心に感じることである。極めて一般的な用法。
例…現役合格を家族で喜ぶ。
▲歓ぶ…歓喜という熟語が示すように、声を上げてよろこぶことである。
例…優勝チームは一斉に歓びの声を上げた。
▲悦ぶ…心に思っていることが叶って嬉しく思うことである。
例…彼は友人の退院を悦んだ。
▲慶ぶ…めでたいと祝い、よろこぶことである。
例…新年をお慶び申し上げます。二人の結婚を慶ぶ。
わかる 判別難易度 ★★★
●分かる…見聞きしたり、調べたりすることで物事を知っているということである。また一般的に使われる。
例…彼の行方が分かった。
▲解る…理解という熟語が示すように、物事の意味や物事の価値がわかるということである。
例…彼の説明はよく解る。その事情は痛いほど解る。
▲判る…判別、判明という熟語が示すように、物事がはっきりと区別できるようになる、という意味である。
例…彼が欠席した理由は判った。その二つの違いが判る。
戻る